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SUEP.
東急大井町線尾山台駅と環状八号線をつなぐ街路樹と石畳の商店街「ハッピーロード尾山台」。そのほど近くにオフィスを構える『株式会社 SUEP.』の代表を務めるのは、アトリエ系建築設計事務所出身の末光弘和さんと組織系建築設計事務所出身の陽子さん。建築家として毛色の異なる経歴を歩まれてこられたお二人の個性が混ざり合いながら、「自然との共生」をテーマに、住宅から別荘、集合住宅、公共施設まで、幅広く建築を手がけてこられたお二人にお話を伺いました。
(末光弘和さん、以下H)僕は実家が四国でガラス屋を営んでいて、昔から家に製図板があったり、建設関連の方が家にきたりと、ものづくりの現場が日常にあったことが大きい気がします。瀬戸内海が近く、船の模型を作ったりして過ごした幼少時代からものづくりが好きで、大学進学の際は、自然と建築方面に進みました。
大学時代に思い出深いのは、青山の同潤会アパートのリノベーションプランに取り組んだ卒業設計。ちょうどその頃、僕らの先生だった安藤忠雄さんが実際に建て替えをやられていて、それは様々な事情から一棟だけ再生して後は壊すという計画だったのですが、僕は壊さず残しながら新しい空間を挿入していくという、言ってみれば安藤さんの案に噛み付くアイデアを出したんです。すると、「おもしろいやんか」とおっしゃってくださり、半年間くらい大阪の安藤事務所に行かせてもらったり、ずいぶん可愛がっていただきました。「20代のときは、経験を買いなさい。お金じゃなくて経験のために働けば30代も走っていける」という言葉は、私の一つの指針になりました。
僕は、卒業式で「建築家になります!」と宣言したぐらい、企業への就職ではなく、明確に建築家を志望していて、卒業後は、伊東豊雄建築設計事務所に就職しました。当時から地球環境に興味があり、人のためでも自然のためでもあるような新しい建築の作り手として伊東さんのもとで働きたいと考えました。あと、伊東事務所は、5階建てのビルで各フロアにボスがいるのですが、彼らを中心に皆がいきいきと働く環境に惹かれて就職しました。
(末光陽子さん、以下Y)私は手先が器用で絵を描くのが得意だったので、大学は工学系がいいなと思っているときに、親が「建築がいいんじゃないの」と勧めてくれたのがキッカケです。就職の時も、親から大きい会社にしなさいと言われ組織系建築設計事務所に就職しました。彼と違い、「絶対に建築家になりたい!」ということはありませんでしたが、私も小さい頃から環境に興味があって、その解決方法として建築という手段があるかなと考えていました。
(Y)実はまだ学生の頃、すでに就職は決まっていましたが、伊東豊雄事務所にオープンデスクで行ったことがあります。その時に、模型の紙の色を決めるのに5時間ぐらい侃侃諤諤の議論をしていて、すごい世界だなと圧倒されました。でも就職先の組織系の事務所では、今度は本当に短時間で建物のデザインが決まってしまうようなスピード感。プロジェクトが動き出すと、オーダーに従って資材などを次々と業者に発注していき、それをとりまとめ形にしていくという、同じ建築設計でも、物事を決めるやり方が全く違いました。当時、オープンデスクで仲良くなった友人たちに会うと、自然と建築はどうあるべきかという議論がはじまる日々。次第に、自分もせっかく生きているんなら、自らの考えや表現ができた方が面白いのかな? と思うようになっていきました。そんな時、「とりあえず独立したら?」という彼の言葉に押されて独立しました。
(H)ですから、僕たちの事務所は、2003年に彼女が先に独立するような形でスタートしました。
(Y)最初の頃は、友人や身内の仕事が多かったですね。特に私の実家でもある製紙会社の新社屋の仕事は印象に残っています。お金がなくともプロセスを大事にしようと、素材を決めるのに10個ぐらいリサーチをかけたり、工務店さんと協力して時には現場で作業したり。なにより、リアルに施主さんの笑顔が見れるのが嬉しかった。その時は自分の親ですが。(笑) はじめてのことばかりで苦労もありましたが、つくっている、という感動がありました。
(H)立ち上げ当初は、それぞれアトリエ系、組織系と育った畑が違うので考え方も作り方も全く違うし、さらに僕は海外物件担当で、彼女は日本で多く仕事をしていましたし、そこも全然違う。でも、そういう個性をミックスしていけば強みになると思い、事務所名はSUEP.(スープ) にしました。
(Y)以前の会社で身につけた知識や考え方は今の自分にとって重要で役に立つものばかりですが、独立して全てを自分たちでコントロールして進めていく、ということに最初は戸惑いもありました。
例えば、施主様からこういう空間が欲しいと言われたとすると、私はお客様のオーダーなのでわかりました、となるのですが、彼の場合は、なぜその空間が欲しいとおっしゃっているのか? というのを考えるんです。
今はもう長くやっているので、足並みも揃っていますが、実際にいろんな案件に携わる中で、いろんな視点があるのはすごくいいなと感じています。それは男女という観点でもそうです。例えば、施主様がご夫婦の場合、男性的な視点だけで話しすぎると、奥様が少し不満に思うこともある。そういう時に私から女性の目線でアドバイスをすることもできます。
(Y)2003年に事務所をスタートさせた時は、彼がまだ伊東事務所にいたので、私一人で桜新町でSOHOで始めました。2階+ロフトの鰻の寝床のような狭い物件で、ロフトがプライベートエリアだったんですけど、打ち合わせに来る方には、「この家のどこに住んでるの?」って驚かれていました。
(H)2007年に僕がジョインして二子玉川に事務所を移して、今の尾山台には2011年に引っ越してきました。ずっと世田谷ですね。
この物件は、元々オーナー住戸なので、最上階のワンフロアですべて角部屋で通風も採光条件もいい。世田谷らしく緑が多くて、多摩川も近いし、環境がとても気に入っています。周りに高い建物がないので、屋上に上がれば東京が見渡せます。
(Y)夏には、オープンデスクの学生たちが海外からもたくさん来るので、みんなで花火を見たりね。
周辺環境という意味では、目の前の商店街は歴史があって、人と人とのふれあいもあって。私は田舎が出身なので人間味があるところが好きです。馴染みの店ができても行くたびに店員さんが変わっているような土地だと少しさみしいじゃないですか。
(H)オフィスの特徴は、家族的なスケール感で小部屋が多いのと、緑が多いこと。地球環境に配慮して建築をつくるというポリシーでやっているので、緑があって自然が感じられればインスピレーションが湧くだろうと意識しています。あとは植物を大事にできない人は建築もできないっていう考えがありまして。まあ時には枯らしてしまうスタッフもいますけど。(笑)
あと、新しいレベルで自然環境と建築との関係を追求していきたいという思いから、ワークスペースとは別にリサーチの勉強をする部屋を用意しています。僕が独立する頃、ちょうど、風をコンピューター上で起こしたりシミュレーションができるようになってきたので、デザインとリサーチ、エンジニアリングを同時にやっていこうということで、見た目の美しさや空間の柔らかさとともに、合理的、数字的な根拠をもちながら設計するようになり、それがSUEP.の独自性になっているといえるかもしれません。
(H)環境を意識したデザインですね。例えば地方だと、自然環境にとても恵まれているので、1,000㎡とか東京ではありえない広さの敷地だったり、斜面や緑だったり、あるものを生かした設計が可能です。でも、東京では高密な敷地のわずかな居住部分にどうアプローチしていくか、ということがテーマになります。
(Y)今回プリズミックさんと協業した「木場の集合住宅」も環境を意識しています。周辺建物の高層化が進み、日照環境が悪いため、最大限冬の日射を獲得しながら、夏の日射を最小にする形状をプログラミングを用いたプロセスで検討し、3,000近いパターンの中から導き出しました。部屋だけでなく中廊下も、通ると光を感じながら風が抜ける感覚を得られるようにしたり、中廊下にドアが面したりさないように玄関をクランクさせたり。
(H)コンピューターで解析して、かつ、身体感覚、ヒューマンスケールでどう感じるかを重要視しながら心地よさを追求しています。
(H)「環境を意識したデザイン」は、独立した当初は、僕らがやりたくて施主さんに「ここならこんなことができます」と提案していたんですが、だんだん実績を積み重ねていくと、少ないエネルギーで済む住宅がいいとか、とっておきの土地を見つけてきたから自然を大事にして最高の設計にしてくれとかそういう環境に対しての意識が高い施主さんが集まってくるようになってきました。太陽光発電の事業を兼ねた建築がいいという方もいますし。そういう時代なんだと思います。
(Y)あとはデザインというと、エゴイスティックなものに捉えられがちですが、環境性能やランニングコストをおろそかにして、見た目の印象の衝動だけでプッシュするのではなく、数字上の合理性を踏まえてパッケージで設計していくことで、理解していただけるクライアントも今後増えてくると思います。
(H)さらに未来ということでいえば、ひとつの建物だけでは地球環境ということではあまり意味がないので、もっと大きな、街づくりにかかわっていきたいなと思っています。全体でエネルギーがかからないとか、商店街でも緑に配慮してみんなの意識が変わっていくようなものにしていくとか、広いエリアでデザインをしていきたいですね。
(Y)地球環境とデザインの融合という軸を持ちながら、先端的なことも、普遍的なことも進めていければと思います。
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